いつものように学校へ。
無難に授業をこなした後、オリエンテーションに参加するためCalifornia State University, Northridgeに向かう。
CSUN(California State University, Northridgeのことをこちらの人は略してこう言う。読み方は「シーサン」)は僕のアパートからフリーウェイを30分ほど北に走ったところにある。
数年前にLos Angeles大地震の震源地となったノースリッジは盆地に位置しているため夏は暑いと聞いていたが、今日もギラギラの日差しに照りつけられ、黙っていても汗が噴き出してくる。
まずはStudent Development and International Programs Officeへ。
渡されたカードに住所、名前、生年月日、ソーシャルセキュリティーナンバーなど必要事項を記入する。
周りを見渡すと、留学生らしいのは僕ともう一人だけ。
結局、2人でカウンセラーの部屋に通される。
パスポートとI-20、そしてSanta Monica Collegeからのトランスファーレターをコピーして渡す。
アメリカに入国してから学校を移る僕のようなケースでは、後で新しいI-20が発行されるのだそうだ。
「Santa Monica Collegeと移民局に確認した後、新しいI-20を作るから9月15日になったらこのオフィスに取りに来てね」とカウンセラーのおばちゃんは優しい。
続いては科目登録の説明。
CSUNではTTR(Touch Tone Registration)という電話による科目登録を採用しているのだが、それに参加するための暗証番号が書かれた書類を受け取る。
「TTRなら自宅にいながら科目登録ができるから早くて簡単よ」と彼女は笑うのだが、英語の聞き取りがあやしい僕の場合、簡単どころか不安が残る。
書類によれば僕の登録日は7月31日。
ただし、その前に登録料と授業料を払っておかなければ使えないそうだ。
次に健康保険の説明。
「日本で申し込んだ海外旅行保険が10月まで残っている」と言うと、「科目登録の段階はそれでOKよ。ただし、保険が切れる前に延長するか新しい保険を申し込んでね。大学が用意している保険もあるから」。
思ったよりフレキシブルなんだなぁ。
予防接種についても意外に融通がきくようで、証明書は来年春の科目登録までに用意すればいいという。
ちなみに受けなければならないのはハシカと風疹の予防接種。
どこか母子手帳を英訳してくれるクリニックを見つけなければ。
と、ここでふと彼女の英語をほとんど理解できている自分に気づく。
渡米から2ヶ月で僕の耳が英語に慣れてきたのか、それとも留学生カウンセラーだから分かり易い英語を使ってくれているのか…。
いずれにしてもいいことだ。
「科目登録をする前に必ず学部のアカデミック・アドバイザーと話し合ってね」と言われたので、アポイントを取ろうと、その足で学部のオフィスに向かう。
受付で用件を伝えると、「45分後でいいかい?」
ラッキー! どうやら今日、時間が空いているらしい。
それまでの時間を使って授業料を支払いにStudent Financial Centerへ。
入学金と諸費用が$985、授業料が1単位あたり$246×9単位で$2214、学生証発行料が$5、駐車場代が$63、合計$3267をクレジットカードで支払う。
高額だが、これをケチるわけにはいかない。
これでTTRを使えるようになるはずだ。
隣の部屋で写真撮影をして学生証を受け取り、もう一度学部オフィスへ。
僕を迎えてくれたのはロマンスグレーで恰幅のあるアドバイザーだった。
「ミスター・スズキ、あなたがこの大学で勉強する目的は何ですか?」
いきなりど真ん中の直球だ。
それより驚いたのは「ミスター」と呼ばれたこと。
Santa Monica Collegeではカウンセラーにもフーバー教授にも常に「ヒロフ~ミ」と呼ばれていたから面食らってしまった。
さすが大学院というべきか。
「日本で10年間放送作家として働いてきた経験を生かしてマルチメディア・エンタテイメントについて学びたい」と答えるとアドバイザー氏は「ニュースに興味はないのか?」「ジャーナリズムについてはどう考えているのか?」と何度も聞いてくる。
もちろん、ニュース番組は僕の経験の重要な部分だし、今後も関わっていきたい分野ではある。
しかし「ニュースはエンタテイメントである」という僕の持論をここで説明するだけの英語力は残念ながら、ない。
「僕が学びたいのはインタラクティブ・エンタテイメントの可能性だ」と結論だけ力説する。
後で分かったのだが、僕が入学するマスコミュニケーション大学院はRadio-TV-Film学部とジャーナリズム学部が合同運営していて、彼はジャーナリズム学部担当のアドバイザーだったのだ。
結局Radio-TV-Film学部のアドバイザーを紹介され、オフィスを訪ねる。
「アポイントを取りたい」と申し出ると秘書らしき女の人が申し訳なさそうに「ドクター・バーコウは多忙のため水曜日の11時から13時しか時間がとれないんです」と言う。
何ぃ、その時間はフーバー教授の授業じゃないか!
しつこく掛け合ったがどうにもならず、結局明日のアポイントを取る。
あぁ、1回授業を休まなければならないなぁ。
広いキャンパスをあちらこちらへ走り回った1日。
来る前はいろいろ不安もあったのだが、実際にやってみると思ったより簡単だったというのが実感だ。
やるべきことが全て終わったのは午後5時。
うっとうしいほど流れ出た汗がカサカサの塩になって身体中にへばりついていた。