午前9時起床。
昨夜はあんなに眠かったにもかかわらず何故か目がさえて眠れなかった。
起きてはいるのだが、かと言って勉強する気力はないという最悪の状態。
結局3時間睡眠で学校に向かう。
ああ、一番集中力が必要な授業の日に限って体調が最悪だなんて。

というわけでNew Direction in Electronic Mediaの教室へ。
Gotthoffer教授は入ってくるなりプリントを配る。
Midterm Paperの課題発表だ。

「Aldous Huxleyによると我々の社会は娯楽(つまりテレビ)によってコントロールされている。一方、George Orwellはビッグブラザー(権力者)にとって都合のいい行為を強要される暗黒世界を想定している。テキスト『Amusing Ourselves to Death』の著者Neil PostmanはHuxleyの説に与しているが、キミ自身はどう考えるか? Huxleyの『Brave New World』、Orwellの『1984』、及びキミ自身の経験を参考にして、テレビが未来のユートピアあるいは暗黒世界をどのように形成するかを考察した5ページのレポートを書け。もし必要ならインターネットに関するビジョンを含めてもいいが、その分量は全体の20%を超えないこと」

テーマ自体は実に興味深い。
しかし、問題は参考文献を2冊も読まなければならないことだ。
実は数週間前の授業で指定されていたので「1984」については和訳本を日本から送ってもらうことになっている。
が「Brave New World」は残念ながら和訳が出ていない。
ということは英語で読まなければならないのだ。

〆切は2週間後。
時間に余裕があればじっくり読みたいところだけれど同じ日にプレゼンテーションもしなければならない。
読まなくても要旨は分かっているのだから何とかなったりするかな、なんて甘いことを考えたりもするのだけれど。

さて、前半の授業は教授の「いいテレビ番組の条件って何だと思う?」という質問からスタート。
クラスメイトが次々に手を挙げて発言していく。
いわく「楽しいこと」「退屈しないこと」「刺激的なこと」…。

おいおい、ちょっと待て!
そりゃ、つまらない番組より面白い番組の方が「いい」のは分かるけど、そればっかりじゃないだろうよ。
ひねくれ者の僕はつい反発したくなってしまう。
思い切って手を挙げて答える。
「信頼できること」「公正であること」

すると教授は笑って「おっ、優秀なプロデューサーみたいな発言だな」と一言。
その笑顔は評価されたからなのか、それとも皮肉の笑いなのか、僕には判断できなかった。

休憩をはさんで後半はプレゼンテーション。
「政府はテレビの内容を規制しすぎている。もっと制作者の手にゆだねられるべきだ」というトピックについてStaceyが賛成、Sethが反対の立場から意見を述べていく。

必死で耳をそばだてるのだが、もはや集中力の限界。
2人ともボソボソしたしゃべりなのでなおさら聞き取りにくく、内容が3割くらいしか理解できないのだ。
時々教授が僕に発言を求めるような視線を投げかけてくるのだが、いったい何を言えばいいのか見当もつかない。
理解できなければ議論に参加できるはずもなく、結局、後半は一言も言葉を発することなく授業が終わってしまった。

クラスメイトのMarikoちゃんとMakiちゃんに聞くと「確かに今日のスピーカーは聞き取りにくかった」と言いつつも、ほぼ100%理解できていたという。
くやしかった。
2人とも何年もアメリカで生活しているのだから当然のことなのだろうけれど、僕は自分の耳がどうしようもなく腹立たしかった。
ちょっと寝不足になっただけで性能がガタ落ちしてしまう、このバカ耳め!

学校からの帰り道、僕は心地よい音楽を流すFM局からマシンガンのように英語をしゃべり続けるAMのニュース局へとカーラジオのチャンネルを切り替えた。