日本では菊地凛子がアカデミー賞にノミネートされたことで話題の作品。
文字通り体当たりの演技は存在感抜群で、ノミネートも納得なのだけれど、それ以上に作品がテーマとしているコミュニケーションの問題に心を打たれ、深く考えさせられた。
「バベル」とは元々、旧約聖書に出てくる地名だ。
遠い昔、言葉は一つだった。
神に近づこうと人間たちは天まで届く塔を建てようとした。
神は怒り、言われた。
「言葉を乱し、世界をバラバラにしよう」
やがてその街は、バベルと呼ばれた。
(旧約聖書 創世記11章)
人間がバラバラな言葉を話している理由を説明しながら、神に近づこうとする思い上がりを諫めるエピソード。
留学時代に言葉の問題でさんざん苦労して、「世界中の人が同じ言葉を話していたらどんなにいいだろう」と思っていた僕には痛いほど突き刺さるテーマだ。
タイトルは単なる比喩で作品自体は宗教とは関係ない。
が、アメリカ~メキシコ~モロッコ~東京と連鎖しながら並行して進行する物語は、どれもコミュニケーションの断絶を描いている。
世界が1つになるグローバル化の時代に、人と人がちっとも分かり合えていないという現実。
そして、人と人が分かり合えないという事実で世界がつながっているという皮肉。
たぶん、世界中の言葉が共通だったとしても人間は分かり合えないのではないかという絶望。
弱さと悲しみこそが人と人を結びつけるのではないかというかすかな希望。
善意の人が善を為すとは限らず、悪意の人が悪を為すとは限らない。
娯楽という意味ではなく、心を動かされるという意味での良質なエンタテイメント。
観終わった後、いろいろなことを考えさせられるいい映画だと思う。
また長い旅に出たくなった。